旋盤上人

私の持ってる旋盤の本にこう書いてあります。

「黒皮」は硬くてバイトを傷めるので、

切削油は使わずに低回転で刃先を黒皮の下に

深く入れて一気に剝いてしまいます。

バカ者どもが！

いったいどういう積りで大事な金をドブに捨てるんだ。
今、お前らの失くした金があれば、

かあちゃんに新しいパンティ買ってやれるんだぞ。
子供にバットもミットもグローブも買ってやれるんだ。

ろくに調べもしないで大事な金を、

つまらん超硬の刃に賭けて失くすバカがあるか！

一日、汗水たらして働いて、

やっとこ500円取れるか取れないお前達が、

どきどき震えながら1000だ2000だと刃物を買って、

それで儲かると思ってんのか！
お前達何も悪い事してるんじゃないんだぞ。
いいか、高い税金取られたうえにまだ足りなくて、

チップ1枚について25円も役場に寄付して、

道路作らせたり学校建てさせたりしている功労者じゃないか。

もっと大きな面をしろ！胸を張って威張るんだ！
そうすりゃ心も落ち着いて目も見えてくるから損をしない。
そういってお前たち素人には、

何者にも捉われず心を空しゅうして

ハイスを立てるということは難しいよな。
だから、お前たちの代わりに俺の立てた刃先どおりに研いでこい。
1000や2000は必ず儲けさせてやる。
いいか、余計なものを買うなよ。このとおり一本で研げ。

本当に救われようと思ったら、

あれこれ構わず迷わずに旋盤一筋に生きろ。
俺たちの宗祖様、法然さんも選択本願集の中で言っておられる。
あらゆる雑行を捨てて、切削という正行一本に生きるんだ。

どうせ俺達は、煩悩(黒皮)というものが体の外にこびりついている。
突っ切ろうと思っても突っ切れるものじゃない。
だから、汚い体のまま、汚れた体のまま阿弥陀様におすがりしろ。

俺も・・・この俺も坊主の身でありながら、

お前たちと同じように旋盤の世界に飛び込んできた。

その俺がお前たちに教える事はこれだ。

いいか。黒皮は折れることを怖がっちゃいけない！
削る時は一発で取れ。わかったか、あれこれ迷うな。

救われることを望んじゃいけない！
スクイというものは一度きりしかないんだ！

「・・・・・・・・・・・・・」

競輪上人